■5月13日(火)
イレーナ・センドラーさん

(5月13日 産経新聞)

 

ユダヤ人の子供2500人を救った女性死去

 

第二次大戦中、ナチス・ドイツの支配下にあったポーランドのワルシャワ・ゲットーから、ユダヤ人の子供たち約2500人を救ったポーランド人女性、イレーナ・センドラーさんが12日、死去した。98歳。

センドラーさんは1940年秋から、社会奉仕家の立場を利用して同ゲットー内に入り、幼児たちをスーツケースに入れたり、スカートの中に隠すなどして逃すことに成功。
ナチス占領下でユダヤ人を助けることには、銃殺などの重罪に処せられる危険があったが、2年以上も命がけの活動を続け、子供たちを孤児院や病院、教会などに匿った。

43年春、ゲシュタポ(国家秘密警察)に逮捕され、強制収容所で拷問を受けるが、
「活動内容を明かすぐらいなら迷わず死を選ぶ」(生前の伝記)と、かたくなに沈黙を守り通した。
その後、仲間がナチス高官を買収し、辛くも死を免れたが、拷問のため足や腕を骨折し、無意識状態のまま近くの森の中に捨てられた。

英雄的な行動は、幼児たちを救ったことにとどまらない。
“生き別れ”を余儀なくされた幼児と親が戦後、再開できるようにと、幼児1人1人の名前などを紙に書き、リンゴの木の下に埋めたことがその例だ。
戦後は社会奉仕家として活動を再開、65年にはイスラエルから表彰を受けた。

同ゲットーで43年、ナチスへの絶望的な蜂起を仕掛けたユダヤ人生存者、マレク・エデルマン氏は12日、地元テレビに対し、「他者のため、弱者のために立ち上がった人は当時、まれだった。
偉大な人物を失った」と、その死を嘆いた。

センドラーさんは昨年のノーベル平和賞候補にも挙がるなど、その勇気ある行動は世界で称賛されたが、死の間際のインタビューにで、
「私が『英雄』と呼ばれることには抵抗がある。実はその逆だ。私はほんの一握りの子供しか救えなかったことに、今も良心の呵責(かしゃく)を感じ続けているのです」
と語っていた。

 

1999年、アメリカ・カンザス州。4人の女子高生が偶然目にしたナチスドイツから2500人の子供を救ったという無名の女性の記事。
歴史コンテスト参加のために研究を始めた4人が調査を進めた結果、それが実在する人物についての実話であることがわかった。
彼らはそれをドラマ化し全米でそのドラマを披露した結果、センドラーの存在が広く知れ渡ることになった。

センドラーが7歳の時に亡くなった父親は、
娘に「もし溺れている人に出会ったら、たとえ泳げなくとも助けようとしなさい」と言い遺したという。

 


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