■ 4月 4日(日)
かもの法則
<記事>
驚くほど効く「心のギアチェンジ」〜前向きな脳をつくる「かもの法則」
プレジデント4月 4日(日) 10時 0分配信 / 経済 - 経済総合
「かも」で、前向きな仕事脳をつくる
■「かも」を変えれば未来は変わる
「リストラされるかも」「給料が減るかも」……不況の中、そんな不吉な予感が頭をかすめる、という人も多いのではないでしょうか。
こうした否定的な「かも」に囚われると、人はどんどん悲観的になってしまいます。そして、自分の仕事がうまくいかないことを、自分以外の誰かや環境のせいにしてしまう。「小泉改革のせいだ」「無能な上司のせいだ」などと責任を転嫁して、自分を守ろうとするのです。
そんな「他責」の思考習慣が、現状を変革できないビジネスマンの特徴といえるでしょう。
恐ろしいことに、誰かを責めることで自分を守っていると、不安や不満などのマイナスの感情に脳が支配され、前向きな努力を放棄してしまう。そして、悪い予感が現実のものになってしまうのです。
その一方で、「こういうときこそ、自分が活躍できるチャンスかも」と、悪条件を肯定的に捉えようとする人もいます。
そういう人は、「ダメかも」「うまくいかないかも」ではなく、「成功するかも」「できるかも」という肯定的な「かも」によって自分をコントロールして、幸せをつかむ。
要するに、「かも」の違いで未来は変わるということ。それを私は、「かもの法則」と名付けています。
人間は、自分の将来について「肯定的な錯覚をしている人」「否定的な錯覚をしている人」に二分されます。肯定的な錯覚をする人は、言うまでもなく、肯定的な「かも」で発想するタイプです。
長年にわたって、経営者やビジネスマンの能力開発に携わってきた経験から言うと、一代で上場企業をつくったような成功者は、ほぼ例外なく肯定的な錯覚をしています。
常識的に考えれば無理だと思うようなことも、「俺ならできる」と思い込んで、本当に実現してしまう。失敗を失敗と思わない、言い換えれば、ただの“アホ”ですが、こういう人に責任転嫁という発想はありません。
ですが、そんな成功者はほんの一握り。世の99%の人は「他責」の思考習慣や否定的な錯覚に陥って、結果的にイメージした通りの自分になってしまう。つまり能力開発とは、いかにして肯定的錯覚、肯定的な「かも」を脳に植えつけるか、に尽きるのです。
■“感情脳”が人を動かす
従来の能力開発理論は、イメージと思考を中心に組み立てられてきました。イメージや思考を司るのは「大脳新皮質」にある右脳と左脳ですが、私はその内側にある「大脳辺縁系」、いわゆる“感情脳”に着目したアプローチを行っています。
イメージや思考という理屈だけでは心をコントロールできない。より深いところにある“感情脳”が人を動かすのです。
肯定的錯覚を続けるためには、常に前向きの予感、肯定的な「かも」で心を満たして、“感情脳”を傷つけないこと。感情脳が「快」の状態なら、自然とプラス思考ができるようになるのです。
近年、うつ病のビジネスマンや自殺者が増えていますが、否定的な思考習慣に縛られている人は、肯定的な錯覚ができるよう、頭を切り替えてほしいと思います。
でも、どうしてもマイナス思考から抜け出せない、他人を責めることでしか自分を守れないという人もいるかもしれません。
そういう人は、とりあえずマイナス思考はそのままにして、プラスのイメージ、プラスの感情を持つよう心がけてください。そうすれば、プラス思考はあとからついてくるはずです。
たとえば、毎日遅くまで飲み歩いている私に対し、妻は烈火のごとく怒ります。まさに鬼のような形相なのですが、「うるさいな、この鬼ババア!」というマイナスの感情を持つと、「どうしてこんな女と結婚したんだ」とマイナス思考に陥ってしまう。でも、「亭主の健康をこんなに心配してくれるなんてありがたいなぁ」と感謝すれば、「妻はとてもいい人だ」という肯定的錯覚が生まれるのです(笑)。
否定的なことを考えたり、口に出したときは、肯定的な記憶データに塗り替えておくことも重要です。
危機的な状況に置かれても、誰かを責めるのではなく、「これは私を強くするチャンス。神様からのプレゼントかも」と肯定的に捉える。すると、“感情脳”が「不快」から「快」へと切り替わるのです。眠っている間に、否定的な記憶が脳に固定化されないよう、寝る前に「記憶の塗り替え」を行うことをお勧めします。
また、肯定的な自己暗示をかける方法もあります。
嫌なことがあったときに「なし!」と言ってパチンと指を鳴らす、「俺は人とは違う。だからこんなことでは腹を立てない」と口に出す──そんな決めごとをつくっておいて、マイナスの感情を忘れるきっかけにする。
私は、毎朝、目覚めたときに、「俺はツイてる!」と言うようにしています。根拠なんてなくても大丈夫。言葉にすることで、“感情脳”を「快」の状態にすることが重要なのです。
苦手な人と接するとき、自分の好きなものを重ねてイメージする方法も、意外なほど効果があります。
私も、会社勤めをしていた頃、大嫌いな上司の頭の上に、好物の松茸が生えている姿をイメージして、「松茸上司」と心の中でおもしろがっていました。そうすれば、「嫌だなぁ」というマイナスの感情が消える。「そんなバカな!」と思う人は一度試してみてください。
■金メダルをつかんだ「他喜力」の強さとは
ここまで、責任転嫁をしないために、物事を肯定的に捉える方法について説明してきましたが、もうひとつ大事なことがあります。
それは、いつも「他人の幸せを考える」こと。
肯定的な思考習慣が身についている人は、「会社のため、家族のためにがんばる」といった「使命感」を持っています。そして、周囲への感謝の気持ちを忘れません。
他人を幸せにする、人を喜ばせようとする能力を、私は「他喜力」と呼んでいます。
自分を幸せにするためだけの努力は燃え尽きますが、他人を幸せにするためなら、いくらでもがんばれる。「かもの法則」で言えば、家族や同僚の喜ぶ顔をイメージすることが「できるかも」につながり、人生にツキをもたらすのです。
企業には、「(1)言われたこともしない人」「(2)言われたことをする人」「(3)言われたこと以上のことをする人」の3種類の人間がいます。まず、「(1)言われたこともしない人」は、言い訳をして自己防衛をする。そして間違いなく「他責」の思考をします。「(2)言われたことをする人」も、悪く言うと言われたことしかしない。なので環境が悪くなったり、追い込まれたりすると、自分を正当化するために責任転嫁をしてしまいます。
ですが、「(3)言われたこと以上のことをする人」は、他人に責任を転嫁しません。指示されていないことまでやるのは「他喜力」であり、積極的自己犠牲です。
会社の前に落ちているゴミを拾うとか、そんな些細なことで十分です。「周囲の人を幸せにしたい」と思うからこそ、自己犠牲が負担にならず、それを楽しいと思えるのです。
この「他喜力」は、特にチームプレーで力を発揮します。私はスポーツ選手のメンタルトレーニングも担当していますが、北京オリンピックで金メダルを獲得した女子ソフトボールチームにも、「他喜力」を植えつけるためのトレーニングをしてもらいました。
その方法は、恩人を訪ねて感謝の気持ちを伝えること。上野選手は、お亡くなりになった高校時代の恩師のお宅を訪ね、仏壇に手を合わせたそうです。
釈迦の教えを基にした手法ですが、脳科学的に考えても非常に理に適っている。脳は入力と出力で成り立っているので、単に「ありがたい」と思うだけではなく、行動という形で出力しなければ強化されないのです。
一見、人のための行動のようですが、実は自分のためになる。周囲の人によって自分が生かされていることに気づくことで、すべてに感謝する気持ちが生まれ、積極的な自己犠牲ができるようになる。それが自分を信じる強さにつながり、あなたを成功へと導くのです。
西田文郎
1949年生まれ、サンリ能力開発研究所代表。ビジネス界、スポーツ界におけるイメージトレーニングの第一人者。北京オリンピックでは女子ソフトボールの金メダル獲得をサポートした。
梶山寿子=構成