余命宣告をされたとき、人の気持ちはどうなる?

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02月12日08:54

 

 

■余命宣告をされたとき、人の気持ちはどうなる?

人生のあらゆる局面で「ショックなこと」は起こります。
なかでも、一番ショックなことは、「自分の命が残り少ない」と知るときでしょう。
多くの人は死を忌み、普段はなるべく考えないようにして生きています。
しかし、「死」は確実に誰にでも訪れます。
その死が目前に迫ったとき、私たちはどんな行動をとるのでしょうか?

アメリカの精神科医師であるキューブラー・ロスは、著書『死ぬ瞬間』の中で、自らの臨床研究で余命を知った多くの患者たちが、次のような5つの心理的プロセスをたどったと伝えました。
これは、後に『受容のプロセス』として呼ばれるようになりました。

要約すると、次のような内容になります。

 

1.否認と隔離
死が近いと知ると非常に大きなショックを受け、「そんなことありえない!」「何かの間違いに決まっている」と否認する。
また、孤立してコミュニケーションを避けるようになる。

2.怒り
「どうして私だけがこんな目にあわなければならないの!」「なぜあの人は元気なのに、私だけが!」というように怒りの感情が噴出する。
そして、見るもの聞くもの、あらゆるものに対して怒りを感じ、その感情を周囲にもぶつける。

3.取引
何かを条件にすることで、延命や回復の奇跡を期待する。
神にすがったり、何かのよい行いをすることで奇跡を得ようとする。
「もう一度だけ○○ができれば、運命を受け入れます」など、期限を条件に願いをかけることもある。

4.抑うつ
死を避けることができないと知り、さらに病気の症状が悪化して衰弱してくると、絶望的になって非常に強く落ち込む。
命とともに、築いてきたものをすべて失う喪失感が襲い、悲しみの底に沈む。

5.受容
体は衰弱しきり、感情はほとんどなくなる。
誰かと話したいという気持ちもなくなり、自らの死の運命をそっと静かに受け入れ、最後のときを穏やかに過ごそうとする。

 

迫りくる死の運命を知ると、衝撃、怒り、期待、絶望といった感情が噴き出します。しかし、最後のときにはそうした一切の激しい感情から解き放たれ、静かに自分の運命を受け入れる、とロスは説きました。後年、こうした心理的プロセスは、「障害」の事実を知ったときにも現れると考えられるようになりました。それが、「障害受容のプロセス」と呼ばれるものです。

 

 

■障害の事実を知ったとき、人の気持ちはどうなる?

自分自身や家族、パートナーなどが、病気や事故の後遺症によって、または生まれつき「障害」があると知ったとき、その事実を受け入れるまでには、次のような5つの心理的プロセスをたどると考えられています。
社会福祉や障害者福祉に携わる人に知られる「障害受容のプロセス」です。

分かりやすくまとめると、次のような内容になります。

1. ショック期
事実を知ってショックを受け、なすすべもなく呆然とする。

2. 否認期
「そんなわけない!」などと強く否定し、認めたくないという気持ちになる。

3. 混乱期
否認できない事実と受け止め、怒りや悲しみで心が満たされ、強く落ち込む。

4. 解決への努力期
感情的になっても何も変わらないと知り、前向きな解決に向かって努力しようとする。

5. 受容期
価値観が変わり、障害を持って生きる自分自身を前向きに捉えるようになる。

 

「受容のプロセス」と同じように、事実を知った後はしばらくの間、複雑な感情が激しく噴出します。
しかし、その感情を十分に経験した後に、冷静になって現状を受け入れるように変遷していきます。
もちろん、すべての人が同じような心理的プロセスを経験するわけではありません。
しかし、多くの当事者にこうした心境の変遷が現れると考えられています。

 

 

■支える側の複雑な心情はどうしたらいいの?

では、「大切な人」がこうした事実に遭遇したときには、どう接したらいいのでしょう?
当事者と同じように動揺し、特に初期には、同じような心理的プロセスをたどっていくことが多いと思われます
。しかし、支える側には「当事者の感情を受け止める」という重要な役割があります。
そのためには、気持ちを切り替えることが大切ですが、その難行を1人で行うのは非常に困難です。

まず、支える側が自分自身の複雑な心情を受け止めてもらうことが必要になります。
病院や専門機関のソーシャルワーカーなどに自分自身の不安な気持ち、やりきれない思いをすべて打ち明けましょう。
専門家なら必ず気持ちを受け止め、支えになってくれるはずです。
冷静さは、感情を吐露し、その感情をまるごと受け止めてもらうことで取り戻すことができます。

余命や障害などの事実を知ったとき、当事者が支えを期待するのは、多くの場合、やはり当事者がいちばん愛し、信頼している人でしょう。
その相手をしっかり支えられるよう、当事者と同じように湧いてくる複雑な感情を、まずは専門家にしっかり受け止めてもらうことから始めていきましょう。
そのうえで、よりよい支援の仕方を一緒に考えていくことです。

 

 

ストレスガイド:
大美賀直子