<東日本大震災>
段ボールに詩…小6が祖父母訪問時の思い
(毎日新聞 - 06月14日 12:30)
ない−−。
震災後、宮城県山元町の祖父母宅を訪ねると、そこにあったはずの風景や人々の笑顔が失われていた。
仙台市立木町通小6年の岩見夏希さん(11)はその衝撃と復興への思いを段ボールに記した。
「まえとはちがうが 必ずいいものが 帰ってくるだろう」。
段ボールの詩は町役場のロビーに置かれ、被災者を勇気付けている。
震災の記憶を語り継ぐためにも、歌や書にして残せないか。町ではそんな声も上がっている。
◇岩見夏希さんの詩◇
ない
見わたせば
なにもない
そこにあるはずの
風景
思い
ぜんぶない
でも
そこにあった
ものをとりもどす
ために
がんばっている
ぼくたちには
まえとはちがうが
必ずいいものが
帰ってくるだろう
◇役場に掲示…宮城・山元町
仙台市青葉区の都市部で両親と暮らす岩見さんにとって、祖父母が暮らす山元町は古里と同じ愛着がある。
春はいちご狩り、夏はクワガタ捕り。
幼い頃から、町の豊かな自然や人々のぬくもりに育まれてきた。
東日本大震災の後、祖父母らと連絡が途絶えた。
「両親と私の3人で100回以上電話しました」。
無事を知らせるメールが届いたのは3日後だった。
4月上旬、ようやくガソリンが手に入り、家族で町に行くと、海沿いの家々は壊され、電車はごろんと転がっていた。
避難所にいた祖母の友人は笑顔が消え別人のようだった。
大好きな町から元気を奪った津波に衝撃を受けた。
詩を読んだり書くのが好きだった。
自分の言葉で思いを伝えようと考えた。
祖父母宅にあった支援物資の入っていた段ボールを分解し、筆ペンで思い浮かんだ言葉をつづった。
タイトルは「ない」。
「風景や思いは失われたけど、必ずいいことがあるからあきらめないで。
絶対に町は帰ってくるんだ」。
そんな願いを込めた。
「大勢に見てもらった方がいい」と祖父母と同居する伯父が勧め、町役場に持って行った。
詩は被災者らの心をとらえ、「ブログに載せたい」「書道家による書にしたい」などの問い合わせが寄せられている。
役場ロビーで放送を続ける災害臨時FM「りんごラジオ」のアナウンサー、高橋厚さん(68)は、「前よりいいものにしようという発想がすごい。
パネルや歌にして残せないかと考えている」と話した。
【長野宏美】