中国:ひき逃げ2歳児、18人見て見ぬふり 人心荒廃嘆く
◇広東地元テレビがビデオ流す ネットで批判殺到、人民日報「道徳向上を」
中国広東省仏山市の路上で今月13日、2歳の女児が車にひき逃げされたのに、通りかかった18人が助けようとせず、女児は別の車にひかれてしまった。(その後死亡)
女児はその後、病院に運ばれたが、意識不明の状態。地元テレビ局が放送した現場の防犯ビデオの映像には、路上に倒れて苦しむ女児をよけたり、バイクを止めてのぞき込んだ後に通り過ぎたりする人々の姿があり、
「物質的に豊かになった半面で人心が失われた」
「社会の道徳心は地に落ちた」
との嘆きが中国全土に広がっている。
事故は、仏山市南海区の金属製品の卸問屋が並ぶ狭い路地で起きた。
ビデオ映像や現地からの報道によると、13日午後5時半ごろ、道路を横切ろうとした女児を白いワゴン車が右側前輪でひき、そのまま逃走。
倒れた女児は手を動かすなど助けを求めていたが、救助されるまでの数分間、18人がバイクや徒歩で横を通りすぎた。
女児は当時、幼稚園から帰宅した後、洗濯をしていた母親が目を離したすきに外出。自宅から約100メートル離れた現場近くで事故に遭った。
廃品回収業の女性(58)が「誰の子だ」と女児を抱えながら付近を歩き回り、母親が異変に気づいて救急搬送された。
インターネットの中国版ツイッター「微博」上では、この18人に対し「冷血動物だ」などの批判が殺到。
「発展とともに私たちの社会の中に(面倒なことに関わりたくないという)計算や欺く気持ちが広がっている」と社会道徳の崩壊を嘆く声が圧倒的多数を占めた。
反響が社会全体に広がったことから、中国共産党機関紙「人民日報」も18日、「私たち皆が(現場に遭遇する)赤の他人になりうるのだ」と題した論評を掲載。
「文明社会の公民の責任にも関わる問題だ」と断じ、道徳意識の向上を求めた。
2番目にひいた男は13日に、最初の男も16日に逮捕された。
調べに対し、自首した男は「物をひいたと思ったが、子供とは思わなかった」と供述。
「自分にも生後9カ月の娘がおり、心苦しい」と後悔しているという。
また、18人のうち5歳の子供と通りかかった女性は、地元紙に対し「口と鼻から血を流し、小さな声で泣いていた。怖くなって、自分の子供も泣き出し、その場を離れてしまった」と悔やんでいた。
女児は人工呼吸器につながれた状態。
母親は「最初にひかれた時に誰かが通報してくれていれば」と心情を吐露。事故直後、父親が近所に情報を求める張り紙を掲載し、自分の携帯電話番号を記したところ、「カネは払うが捕まりたくない」「1万元でどうだ」などと犯人を装ったいたずら電話も複数あったといい、家族は二重の苦しみに遭っている。
一方、18人が通りすぎた背景として、06年に江蘇省南京で起きた“事件”を指摘する声もある。
中国メディアなどによると、バス停で転倒してけがをした高齢の女性を、若い男性が善意で病院に搬送。
ところが、逆に女性から「この男に突き落とされて骨折した」と主張され、損害賠償金を払わされる羽目になったという。
微博上には、「善意を逆手にとられてしまうような社会では、関わらない方がましだ」と18人を擁護する意見も掲載されている。
毎日新聞 2011年10月19日 東京朝刊