一人でいる時間の深い恩恵。
孤独はあなたの生きる力

 

2006年9月25日掲載

 

本当に心身ともにボロボロになってしまったとき、人はどのようにして立ち直るのだろうか。自身もその状況を体験して、津田さんは一人の時間に答えがあると気づいた。

「かつての私は、格好良いスーツを着て時差をものともせずに飛び回り、国際電話をかけまくるという仕事人間でした。転職のたびに給与も上がり、やがて自分の会社を起こし、私って成功者の仲間入りができるかもと思ってた(笑い)。

でもある日、人に会いたくない、電話もできない、家の中で歩けないという信じられないことが起きたのです。生きていたくないと思い詰めるほどでした」

頭は空っぽ、何も考えられずどのくらいそうしていたかも分からない。そしてふと外を見ると美しい夕日があった。ああ、きれいだと感じた瞬間から、ゆっくりと薄皮をはがすように自分の感覚が戻ってきたそうだ。

「人からも認められ、何でもコントロールできる自信があったので、この体験は衝撃でした。

でも、私はなぜこんなふうになり、そしてまた生きる力がわいたのか。考えるうちに孤独の持つ力に思い至ったのです。寂しいという孤独感(ロンリネス)ではなく、私を静かに安定させ、内面を発酵させてくれた大切な孤独の力がある。それに私はソリテュード=積極的孤独と名づけました。これで本当に楽になった」

心理学の分野で、この孤独の持つ重要な側面に焦点をあてた研究が十分ではないと感じ、津田さんは大学院入学、修士論文完成まで突き進んだ。そして今、子供社会から大人まで日本中に満ちている「いつもみんなと一緒に、元気で明るくいなくては」という呪縛から解き放たれよう、と語りかける。

「仲間外れにされてるわけじゃなく、一人で静かにいることが好きなんだなと知ること。それでまた人と仲良くするパワーもわいてくるのですから」

自分という海の中へ深くゆっくりと泳いでいく感覚だろうか。またぽっかりと海上に出ると、太陽の輝きやにぎやかな人の声がうれしいような。

津田さんから、安らかで新しい価値観をもらった気がする。

 


創造学園大学客員教授
Kimono lifeコーディネーター
津田和壽澄さん

つだ・かずみ ●青山学院大学文学部英米文学科卒業後、住友商事、デュポンジャパン、メリルリンチ証券、ラッセルレイノルズアソシエイツなどを経て、1989年経営コンサルティング会社「ケイテックス」設立。また「ひとりでいること」の大切さを実感し、それを「ソリテュード・タイム」と名づけ、講演や執筆などで多くの人にエールを送り続けている。2001年、米国ニューポート大学大学院人間行動学研究科修士課程修了。主な著書に『もう、「ひとり」は怖くない』(祥伝社)、『孤独力〜人間を成熟させる「ひとりの時間」』(講談社)など。ソリテュード講演を10月11・15・21・22日に開催予定。問い合わせはEメール(info@kazumiryu.com)へ。