慰安婦って何? - 池田
信夫氏による『よくわかる?解説!』
大阪市の橋下市長の発言で「従軍慰安婦」が、また問題になっています。お母さんに「慰安婦って何?」ときいても「小学生には関係ないの」と教えてもらえないと思うので、こっそり教えてあげましょう。
慰安婦というのは、第2次大戦の戦地にいた「売春婦」のことです。これは今は法律で禁止されているので、くわしいことは説明しませんが、要するに男性からお金をもらってセックスする女性のことです。戦地では男ばかりなので、こういう商売をする「慰安所」ができました。売春は戦前は合法的なビジネスでしたが、危険なので軍が管理していました。
当時は「従軍慰安婦」という仕事はなく、1970年代までは誰も知らない言葉でした。ところが1983年に「私が朝鮮から奴隷狩りして慰安婦にした」という吉田清治という元兵士があらわれ、本まで書いたため、騒ぎが始まりました。この本はのちに吉田が「フィクションだ」と認めたのですが、これをきっかけに慰安婦の人々が日本に対する賠償を求めるようになりました。
慰安婦は給料を軍票という軍の中でしか使えないお金でもらっていたため、敗戦と同時に紙切れになってしまったのです。それを賠償しろというのが最初の訴訟だったのですが、朝日新聞がこれを吉田清治の話と混同して「日本軍が慰安婦を強制連行した」という記事を書いたため、大騒ぎになりました。
慰安婦の中には人身売買(親の借金の代わりに娘を売る)で戦地に連れて行かれた人もいますが、買ったのは民間業者で、軍がひっぱっていったわけではありません。ところが韓国政府の抗議に対して、河野洋平官房長官(河野太郎さんのお父さん)が「日本政府に責任がある」ともとれる河野談話を出したため、韓国政府が「責任があるなら賠償しろ」と要求して、いまだにもめ続けているのです。
みなさんはお母さんに「友だちとケンカしたときは、お互いにあやまって仲よくしなさい」と教わると思います。こういうマナーは友だちどうしならいいのですが、国と国の間ではそうは行きません。日本みたいに平和な国はめずらしく、世界では今もどこかで戦争が起こっています。戦争で政府があやまると「負けた」と認めたことになり、殺されても文句はいえません。
本多勝一さんによると、絶対にあやまらないのはベドウィンなどの遊牧民族で、客にまちがったお釣りをはらったときも「お前がまちがえた」といいはるそうです。彼らはよく他の民族をおそって略奪したりするので、ケンカで負けると何をされるかわからないためでしょう。
その逆に、ちょっと服をよごしただけでもすぐあやまるのは、ニューギニア高地人とエスキモーだそうです。彼らは他の民族とはなれて平和にくらしてきたので、お互いにあやまったら許してあげるようになったのでしょう。日本人もアジアの端っこの島国で、大きな戦争をしたことがほとんどなかったので、同じような習慣ができたのだと思います。
でも大人の世界では、ケンカの相手は日本人だけではないし、やさしい人ばかりでもありません。ほんとに悪いときはあやまらないといけませんが、河野洋平さんのように悪くないのにあやまると、かえってケンカがこじれることもあります。よい子のみなさんは、自分が正しいときは「正しい」と主張できる大人になってください。
2013年5月20日(月)18時21分配信 アゴラ
ちなみに、1965年に結ばれた日韓基本条約で、韓国政府が賠償を当時の韓国GDP(3.5億ドル)の約3倍弱に当たる約11億ドルの経済援助など様々な援助に加えて、両国間の財産、請求権一切の完全かつ最終的な解決、それらに基づく関係正常化などの取り決めを行っています。
その他の説明は、池田信夫さんが「慰安婦」について、 ↓ 以下で大人向けに?さらに詳しく書いているそうです。よかったらご覧ください。
http://agora-web.jp/nyt.pdf
NYタイムズのための「慰安婦問題」入門
年頭から
NYタイムズが取り上げた慰安婦問題
今年の1月2日、ニューヨークタイムズ(電子版)は「日本の歴史を否定する新たな試み」という社説を出した。新年早々、アメリカとはほとんど関係のない日韓関係についてNYタイムズがコメントするのも奇妙だが、そのトーンは次のように日本の新聞にも見られない強いものだ。
日本の新しい首相、安倍晋三は、日韓の緊張を高めて協力を困難にする間違いを犯そうとしているように見える。彼は第二次大戦についての日本の謝罪を修正しようと試みる兆しを見せているのだ。そこには韓国などの女性を性奴隷に使ったことも含まれる。(中略)
1993年に日本は、ようやく日本軍が数千人のアジアやヨーロッパの女性を強姦して奴隷にしたことを認め、そうした残虐行為を初めて正式に謝罪した。犯罪を否定したり謝罪を薄めたりするどんな試みも、太平洋戦争で日本の圧政下に置かれた韓国や中国やフィリピンの人々を怒らせるだろう。(中略)
安倍氏の恥ずべき衝動は、北朝鮮の核兵器についての東アジアの重要な協力を阻害する可能性がある。そうした歴史修正主義による過去の漂白は、長期的な経済低迷の脱却に専念すべき日本にとって邪魔になるだろう(強調は引用者)。
国内には、もう慰安婦の強制連行を問題にするメディアはほとんどない。この発端となった朝日新聞でさえ、社説でも1993年の(慰安婦問題について謝罪した)河野談話の見直しは「枝を見て幹を見ない態度だ」という表現で、強制連行が行なわれたという報道を事実上撤回している。
そんな中で、なぜかアメリカでは日本政府に謝罪を求める決議案がニューヨーク州議会に提出されるなど、慰安婦が執拗に取り上げられている。そのほとんどは「20世紀最大の人身売買」などという荒唐無稽なものだが、NYタイムズまで「軍が強姦して性奴隷にした」などというのは困ったものだ。
慰安婦問題については韓国人を説得することは不可能なので、アメリカが重要な役割を担っている。本来は彼らが日韓の橋渡しをしてくれればいいのだが、国務省は「今さらこの問題を蒸し返して河野談話を見直すと日韓問題がこじれる」という見解だ。NYタイムズの社説も、こういうアメリカ政府の方針を反映したものだろう。
これは政治的には妥当な判断かもしれない。この問題で韓国の誤解を解くことは不可能だと思うが、せめて欧米人には事実を理解してほしい。だから遠回りではあるが、欧米メディアの誤解している(というより根本的に知らない)事実関係をおさらいしておこう。
「詐話師」の嘘から始まった慰安婦騒動
日本軍が「慰安婦」を従軍させていたという都市伝説は古くからあったが、1965年の日韓基本条約でも賠償の対象になっていない。「従軍慰安婦」という言葉も日本のルポライターの造語で、戦時中にそういう言葉が使われた事実もない。
ところが1983年に吉田清治という元陸軍兵士が『私の戦争犯罪』という本を出し、済州島で「慰安婦狩り」を行なって多数の女性を女子挺身隊として戦場に拉致した、と語った。これは「勇気ある証言」として多くのメディアに取り上げられたが、彼の話は場所や時間の記述が曖昧で、慰安婦狩りをどこで誰に行なったのかがはっきりしない。そこで済州島の地元紙が調査したところ、本の記述に該当する村はなく、日本軍が済州島に来たという事実さえ確認できなかった。
吉田以外にはこういう証言をした人物はいないため、これは彼の捏造ではないかとの疑惑が出て、歴史学者の秦郁彦氏などが彼を問いただしたところ、吉田は1996年に「フィクションだった」と認めた。常識的には、自分が犯罪を犯したと名乗り出る人がいるとは思えないが、戦争体験については誇大に「懺悔」することで注目を引き、本や講演で稼ごうとする「詐話師」がいるのだ。
本来なら話はこれで終わりだが、吉田の話が韓国のメディアにも取り上げられたため、1990年に韓国で「挺身隊問題対策協議会」という慰安婦について日本に賠償を求める組織ができた。これに呼応して高木健一氏や福島瑞穂氏などの弁護士が、日本政府に対する訴訟を起こそうとして原告を募集した。それに応募して出て来たのが、金学順だった。
彼女は1991年8月に来日し、訴訟の原告として裁判を起こすとともにメディアにも登場し、伝説の存在だった「慰安婦」が初めて名乗り出たケースとして話題になった。私は当時、NHK大阪放送局で終戦記念番組を制作していたが、そこに金を売り込んできたのが福島氏だった。
金は「親に売られてキーセンになり、義父に連れられて日本軍の慰安所に行った」と証言し、軍票(軍の通貨)で支払われた給料が終戦で無価値になったので、日本政府に対してその損害賠償を求めたのだ。
われわれは強制連行の実態を取材しようと、2班にわかれて韓国ロケを行なった。私の班は男性で、もう一つの班が女性の慰安婦だった。現地で賠償運動をしている韓国人に案内してもらって、男女あわせて50人ほどに取材したが、意外なことに1人も「軍に引っ張られた」とか「強制的に働かされた」という人はいなかった。
当時の朝鮮半島は日本の植民地だったが、賃金は内地の半分ぐらいで貧しかったため、本土に出稼ぎに行く人が多かった。そこに朝鮮人の「口入れ屋」がやってきて、炭鉱などの職を斡旋して手数料を稼いでいたのだ。
その労働者を運ぶ船は、軍の船だった。慰安婦の場合も、慰安所の管理は軍がやってい3
ることが多かった。だまされて「タコ部屋」から逃げられない事件も多かったが、監禁したのは業者である。もちろん好ましいことではないが、これは商行為であり、国家に責任はない。
どう調べても強制という実態がないため、番組はインパクトの弱いものになった。慰安婦が初めて実名で名乗り出て来たことは話題を呼んだが、それは当時は合法だった公娼(公的に管理された娼婦)の物語に過ぎない。NHKは、この話を深追いしなかった。
慰安婦の「強制連行」は朝日新聞の大誤報
ところが朝日新聞は金学順が出て来たとき、「戦場に連行され、日本軍人相手に売春行為を強いられた『朝鮮人従軍慰安婦』のうち、一人がソウル市内に生存していることがわかった」という植村隆記者の「スクープ」を掲載した。
続いて朝日新聞は、1992年1月の「慰安所 軍関与示す資料」という記事で日本軍の出した慰安所の管理についての通達を報じた。このとき慰安婦の説明として「女子挺身隊として軍に強制連行された」と書いたため、その直後に訪韓した宮沢喜一首相は韓国の盧泰愚大統領に謝罪した。
しかしこの通達は「慰安婦を誘拐するな」と業者に命じたものだ。軍が慰安婦を拉致した事実はなく、そういう軍命などの文書もないが、韓国政府が日本政府に賠償を求めたため、政府間の問題になった。
日本政府は1992年に「旧日本軍が慰安所の運営などに直接関与していたが、強制連行の裏づけとなる資料は見つからなかった」とする調査結果を発表したが、韓国の批判が収まらなかったため、1993年に河野談話を発表した。そこでは問題の部分は次のように書かれている。
慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。(強調は引用者)。
ここで「官憲等が直接これに加担した」という意味不明の言葉を挿入したことが、のちのち問題を残す原因になった。この問題については2007年に安倍内閣の答弁書が閣議決定され、ここでは「調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである」と明記されている。
つまり政府としては「強制連行はなかった」というのが公式見解なのだが、この答弁書で「官房長官談話のとおり」と書いたため、「官憲が加担した」という河野談話を継承する結果になった。このときNYタイムズ紙のノリミツ・オオニシ支局長が慰安婦問題を取り上げて「元慰安婦」の証言を報じ、安倍首相は訪米で謝罪するはめになった。
誤解と行き違いが重なって問題が拡大した
同時進行で見てきた私の印象では、この問題はいろいろな行き違いが重なって思いがけず延焼が広がってしまったという感が強い。そもそも朝鮮半島の労働者を酷使したという意味なら、慰安婦よりも男性の労働者のほうがはるかに大規模で深刻な問題である。
たとえば第二次大戦の末期に秋田県の花岡鉱山で中国人労働者が過酷な労働環境に抗議して蜂起し、暴行や虐殺で400人以上が死亡した「花岡事件」のように、強制労働の実態はあった。ただ、この場合も遺族などが戦後補償訴訟を起こした相手は鹿島だったことでもわかるように、強制労働の責任者は民間企業だった。
60万人ともいわれる男性の強制労働に比べると、慰安婦の規模は数万人とはるかに小さく、賃金も二等兵の20倍以上もらっていたといわれる。その慰安婦だけが脚光を浴びたのは、吉田清治がこれを猟奇的な強姦事件として描いたためだ。彼は小遣い稼ぎのための作り話ぐらいのつもりだったようだが、それを利用して集団訴訟を行なおうとした日本の弁護士が問題を拡大した。
私が最初に金学順の話を聞いたときは「親に売られた」といい、訴状にもそう書かれていた。それが朝日新聞の報道のあとで「軍に連行された」という話にすり替わった経緯は今も不明だ。
植村記者の義母は日本政府に対する慰安婦訴訟の原告団長だったので、彼の記事は訴訟を有利にするための捏造だった疑いもあるが、「女子挺身隊」という吉田の嘘を踏襲しているところから考えると、単純に吉田証言を信じてその「裏が取れた」と思い込んだ可能性もある。
朝日新聞の取材に協力したのが、吉見義明氏(中央大学教授)である。彼の『従軍慰安婦』(岩波新書)は英訳されているため、海外ではこれが唯一の参考文献になっていることも誤解の原因である。
吉見氏がこの問題を調査し始めたのは、朝日新聞が強制連行を報じたあとなので、最初から強制連行の証拠をさがすというバイアスが入っていた。前述の通達も誘拐を禁じる文書なのに、吉見氏がそれを誘拐の命令と誤読したことが混乱の原因になった。
昨年、橋下徹大阪市長が「吉見氏も強制連行がないと認めた」と述べたのに対する吉見氏の抗議声明で「日本・朝鮮・台湾から女性たちを、略取・誘拐・人身売買により海外に連れて行くことは、当時においても犯罪でした。誘拐や人身売買も強制連行である、と私は述べています」と書いている。
つまり彼は韓国では軍が慰安婦を拉致した実態がないことを認めた上で、民間人による誘拐や人身売買を「強制連行」と呼んでいるのだ。このように定義すれば、強制連行があったことは明らかで、政府も最初から認めている。つまり吉見氏と朝日新聞は、国家の責任問題を女性の人権問題にすり替えたのである。
拙劣な政府の対応が世界に誤解を拡大した
朝日新聞が火をつけた問題を決定的に大きくしたのが、政府の拙劣な対応だった。河野談話で「官憲等が直接これに加担したこともあった」と書いたのは、河野氏のブリーフィングによれば、インドネシアで起こった軍紀違反事件(スマラン事件)のことだ。これは末端の兵士が起こした強姦事件で、責任者はBC級戦犯として処罰された。
ところが河野談話ではこの点を明記しなかったため、朝鮮半島でも官憲が強制連行したと解釈される結果になった。このように誤解を与える表現をとった原因を、石原信雄氏(当時の官房副長官)は、産経新聞の取材に答えて次のように明かしている。
当時、韓国側は談話に慰安婦募集の強制性を盛り込むよう執拗に働きかける一方、「慰安婦の名誉の問題であり、個人補償は要求しない」と非公式に打診してきた。日本側は強制性を認めれば、韓国側も矛を収めるのではないかとの期待感を抱き、強制性を認めることを談話の発表前に韓国側に伝えた。
強制を示す文書は出てこなかったのに、あたかも強制があったかのような曖昧な表現をとることで、外務省は韓国政府と政治決着しようとしたのだ。ところが結果的には、これが「日本は強制を認めた」と受け取られ、韓国メディアが騒いで収拾がつかなくなった。その後も国連人権委員会のクマラスワミ氏がまとめた報告書では、慰安婦を「性奴隷」と規定して日本政府に補償や関係者の処罰を迫ったが、その根拠が河野談話だった。
政府は財団法人「女性のためのアジア平和国民基金(アジア女性基金)」を設立して元慰安婦に「償い金」約13億円を渡し、歴代首相が「おわびの手紙」を送った。このように政府が「強制はなかったが悪かった」という態度表明を繰り返したため、世界に誤解が定着してしまったのだ。
海外メディアが関心をもつようになったのはこの時期だから、彼らはそもそも慰安婦が「軍の奴隷狩り」として問題になった経緯を知らない。彼らにとっては最初から慰安婦は女性の人権問題なので、「強制連行はなかった」というのは言い訳としか映らない。元慰安婦が「私は強制連行された」と弁護士に教えられた通り答えると、何も証拠がなくても信じてしまう。
私がNYタイムズ東京支局のタブチ・ヒロコ記者とこの件についてツイッターで会話したとき、私が「元慰安婦の話には証拠がない」というと、タブチ記者が「彼らが嘘つきだというんですか?」と反論したことが印象的だった。彼らにとっては慰安婦は被害者で日本軍は犯人なのだから、気の毒な被害者が嘘をつくはずがないのだ。
このように自分の先入観を確証する事実しか見なくなる心理的な傾向を確証バイアスと呼ぶ。海外メディアは最初に「日本軍が大規模な人身売買を行なった」という誤解から入ったため、公権力の行使があったのかどうかという問題の所在を取り違え、慰安婦=人身売買=強制連行という図式で報道してきたのだ。
必要なのは批判ではなく治療
このように何を「慰安婦問題」と見るかによって、その答は違う。当初は軍が「慰安婦狩り」で誘拐したことが問題だった。たとえば第二次大戦末期のナチスには、親衛隊や強制収容所の看守のための国営売春施設があったといわれる。これは戦意昂揚のために親衛隊指導者のヒムラーが創設したもので、オーストリアのマウトハウゼン・グーゼン強制収容所をはじめ、12の強制収容所に売春施設があったとされる。
日本軍がこのような組織的な国営売春を行なって女性を連行・監禁したとすれば、たとえ法的な賠償責任がなくても、日本政府は韓国政府に謝罪すべきだ。朝日新聞が最初に報じたのは、これに近いイメージだったから大事件に発展したのだ。
ところが政府の調査でも、軍が連行したという証拠がまったく出てこない。単に文書がないというだけではなく、元慰安婦と自称する女性の(二転三転する)身の上話以外に、連行した兵士もそれを目撃した人も出てこないのだ。慰安婦の大部分は日本人だったが、その証言も出てこない。
最近では吉見氏も、日本の植民地だった朝鮮や台湾から軍が女性を誘拐して海外に連れて行った事実は確認できないことを認めている。彼は「中国や東南アジアでは強制連行があった」というが、その証拠はスマラン事件の裁判記録しかない。これは軍紀違反として処罰されたのだから、むしろ日本軍が強制連行を禁じていた証拠である。
このように少なくとも韓国については、日本軍が韓国から女性を連行した証拠はないというのは歴史家の合意であり、問題はこの事実をどう解釈するかである。吉見氏のように「民間業者による誘拐や人身売買も強制連行である」と定義すれば、それが一部で行なわれたことは事実だが、それは日本軍の責任ではない。
ところがNYタイムズは「日本軍がアジアやヨーロッパの女性を強姦して奴隷にした」と書き、日本軍が主語になっている。彼らの表現は曖昧だが、日本軍が韓国女性を強制的に「性奴隷」にしたと考えているようだ。
当初の吉田の話では、韓国女性を「奴隷狩り」したことになっていたのだが、それが嘘だとわかると、朝日新聞や吉見氏が「民間の人身売買も強制連行だ」と拡大解釈してごまかし、NYタイムズなど海外メディアがこれに追随したことが混乱の原因だ。アメリカ議会などの決議も、人身売買を非難しながら強制連行を問題にするのも矛盾している。日本軍が暴力で拉致したのなら、人身売買なんかする必要はない。
日本政府が責任の所在を明確にしないまま河野談話で謝罪したのは、取り返しのつかない失敗だった。今ごろ「狭義の強制と広義の強制」などと言っても、言い訳がましくなるだけで世界に通じるとは思えない。アメリカ国務省の「日本が弁明しても立場はよくならない」という情勢認識は残念ながら正しい。
こうした行き詰まりを打開する第一歩として、この問題が嘘と誤解と勘違いで生まれたことを海外メディアに理解してもらう必要がある。しかし彼らは「日本軍は凶悪な性犯罪者だ」という強迫観念にとりつかれた患者のようなものだから、「あなたの考えは間違っている」と批判しても効果はない。
必要なのは、彼らのバイアスを自覚させる治療である。慰安婦問題がどのように発生し、どこで誤解が生まれ、どういう行き違いでここまで大問題になったのかという経緯を説明して、彼らに刷り込まれた先入観を解除することが相互理解の第一歩だろう。