外国人旅行者が帰国後に懐かしむ日本:「21の魅力」
forbs 2019/08/25 12:00
日本を訪れる旅行者が離日後に懐かしく思うこと、「日本滞在中に存分に楽しんでおけよ」と同胞旅行者たちに伝えたいことは何だろう。もしかするとそこに、われわれがもっと愛でながら暮らしてもいい、わが国のささやかな魅力が潜んでいるかもしれない。
日本を訪れる旅行者や、海外からの日本長期滞在者向けメディア「Japan Inside」の外国人記者が、外国人旅行者や、半年から10年以上日本に住み、最近帰国した外国人たちに取材し、まとめたリストがある。翻訳転載許諾を得たので、3回にわたって掲載する。
私たち外国人の多くはある時点で日本に別れを告げ、それぞれの故郷に帰らなければならない。
日本のああいうところがよかったとすぐに恋しくなることもあれば、帰国して数週間、あるいは数カ月経ってからようやく心に沁み戻ってくることもある。
日本に「さよなら」を告げて故郷に戻った外国人が心から懐かしく感じる、日本のユニークでささやかな魅力について、順不同で紹介しよう。
1. レストランに入ると出てくる「おしぼり」タオル
町を歩き回ったわが手は、清潔とは言い難い──エスカレーターの手すりにつかまり、現金を触り、電車のつり革にぶら下がり、あげくにはこっそり鼻をほじり……。そう思うと、流行のカフェに座ってサンドイッチやベーグルを食べる魅力も半減だ。
しかし日本では、ほぼすべてのレストラン、カフェ、和風の居酒屋で、席に座った瞬間、手を拭くための濡れたタオル(「おしぼり」と呼ばれる)が差し出される。 私がインタビューをした帰国者の多くは、自分の国にこの「ハンドタオル」がないことを嘆いていた。仕方なく代替品として、ウェットティッシュをバッグに常備することが帰国後の習慣になった人もいた。
2. チップ不要。しかもファーストクラスのサービス
日本のレストランでは、時給800円─1000円で働く店員から、ちょっとした有名人のような扱いが期待できる。敬語。お辞儀。あなたが支払いを待っているのを見つけると文字通りダッシュで駆けつけてくれるし、注文の手違いはめったに起こらない。そして何が最高かというと、このファーストクラスのサービスを受けるときに、「一銭も払う必要がない」ことだ。彼らは、自分の仕事を抜群に上手にこなしているだけ。客から「余分にもらう」ことを期待していないのだ。
チップが義務づけられている国(アメリカ)や、少なくともある程度は期待される国(イギリス)から日本を訪れた旅行者は、帰国後、大いにショックを受ける可能性がある。サービスが大したことがないのにチップを払うプレッシャーから逃れられなかったり、店のドアをくぐったとたんにチップを期待していることを感じさせるような、いわば鼻につくサービスを受けたり(執筆者は後者のほうがはるかに苦手だ)したときはなおさらだ。
3. 飲む前に必ず「カンパイ」すること
仕事の後にビールを軽く一杯飲むときも、何十人も参加する送別会の席でも、日本では全員がグラスを手に持ち、心をこめてグラスを合わせるまで、誰も酒に口をつけることはない。
筆者のように日本にある程度長く住んでいると、この習慣が深く根づいてしまうらしく、自宅でビールを飲むときでも、ふと気づけば飼っている金魚に「カンパイ」とつぶやいている。長く日本に暮らした後では、一緒にパブに入った友人が、あなたの飲み物が注がれる前に厚かましくもグラスに口をつけようものなら、その手からグラスをはたき落として「無礼者」呼ばわりしたい衝動に駆られるだろう。
4. 「やさしい」風呂
同僚の女性に、もし帰国することになったら日本の何が恋しくなるかとたずねたところ、「日本のゴージャスなトイレに夢中になる人は多いわよね」と切り出した。「でも、お風呂も素晴らしいと思う。自動的に一定の水位まで給湯して、温度をキープしてくれて、別の部屋にいる人に、お風呂の準備ができたことを音声で知らせてくれる!」
彼女の言うとおりだ。私たち「ガイジン」は、未来を先取りしたような日本のトイレのシャワー洗浄、暖かい便座に驚嘆を覚える。しかも家庭風呂にも、同じくらい多くの「装飾」がついている。しかも隣の部屋から操作できるときている。
日本で入浴する人は、通常はキッチンに設置してあるコントロールパネルを使って、給湯開始時間と正確な湯の温度、保温時間を設定できる。夕食を食べたり、ワインを片手にテレビを見たり、快適な椅子で音楽を聴いたりと夜の時間を楽しみ、そして、そろそろ体を洗ってパジャマに着替えるか、と考え始めたちょうどそのとき、家のお風呂がやさしい鈴の音であなたを呼び、眠る前の贅沢な深い入浴に誘ってくれる。まさに魔法だ。
5. 抜群の治安
もちろん日本でも犯罪は起きる。しかし、夜に街を歩いたり、宿泊場所を大まかにしか決めずにほぼバックパックだけの荷物を抱えて見知らぬ日本の町に到着したりしても、一般的にはごく安全であることを否定する人はほとんどいない。そのうえ、遺失物が高い確率で持ち主に戻ってくるとなると、日本を離れた外国人の多くが、この国の治安を懐かしく思う気持ちが理解できるだろう。
6. お金を置く小さなトレイ
日本の店で何かの支払いをするときは、現金を直接レジ係に手渡さずに、小さなプラスチック製のトレイに入れる。おつりを受け取るときも、小銭は通常同じ方法で返してもらえるので、金額の確認がしやすい。ちなみにトレイに細いゴムの筋がついているのは、あなたと店員が、中のコインを取りやすくするためのデザインだ。
はじめのうちは、不必要な、ばかげたことに思えるかもしれない。しかし日本を去った後、自分の手のひらを開いてあなたの支払いを待っているレジ係を見つめながら、気がつけば、「手に直接お金を入れてほしがるなんて!」と呆れて考えるはずだ。
7. 清潔でぱりっとした紙幣
旅行先、あるいは長期滞在先が日本だった場合、おそらくあなたは、故郷の国の紙幣がかなり汚いことに気づくことだろう。
私が母国イギリスで渡される5ポンド紙幣には、マーカーペンの走り書きがあったり、角が欠けていたり、テープで貼り合わせてあったり、なかには何十回も洗濯機で脱水をかけたようなものさえある。
日本の「現金」への忠誠心には、時々いらいらさせられるかもしれない。最先端の技術で有名な国が、いまだにデビットカードを完全に受け入れていないのはなぜだ? と。しかし少なくともあなたが使う紙幣は、ほとんど必ずといってほど清潔でぱりっとしているし、一番いいのは、セロテープで修繕されたりしていないことだ。
8. 座ると出てくる「水」
カフェやレストランの椅子にお尻をつけた瞬間、「おしぼり」タオルをもらえるのと同時に、小さなコップに入った水も差しだされる。コーヒーや酒やソフトドリンクを売ってもうけを増やそうという施設であっても、座ると無料の水がコップに入って提供されるのだ。これは日本の有名な「おもてなし」の一環であり、故郷のレストランに帰った時に必ず懐かしく思い出されることだ。
9. 「お疲れさま」
実際問題、帰国後にこの決まり文句が使えなくなって途方に暮れる外国人は多い。
「お疲れさま(「You’re tired=あなたは疲れています」)は、日本全国で、1日に何百万回と発せられる日本語だ。ちなみに、言った人は、同僚ががんばったと必ずしも本気で思っているわけではない。しかし、経験はないだろうか。すごく努力している同僚に「やあ、お前、今日はよくがんばったなあ、友よ、感謝してる」と伝えたいけれど、ぎこちなくて気まずくなるのは避けたい、ということが。
「おつかれさま」は英語の言い回しではありえない方法で、それを可能にしてくれる魔法の言葉だ。実にうらやましい。
10. 不在時荷物の再配達
日本でも西洋諸国と同じように、なんらかの理由で荷物が自宅に配達できなかった場合、その旨を伝えるカードがポストに届く。しかし、数日後に郵便局へ引き取りに行ったり、家で何時間も待ち続けたりという手間は必要ない。日本では荷物の再配達が楽々、簡単なのだ。
やり方は次のとおり。自動音声の回線に電話をかけて(または、ドライバーが自分の携帯番号をカードに直接書き込んでくれている場合も多い)、再配達の時間を予約する。時間枠は2時間刻みで、一部の地域では夜10時や11時まで配達してくれる。
配達員によっては、電話をかけなくても2、3回配達に来てくれるし、配達時間帯を予約すると、荷物は必ず、絶対に、時間どおりに届けられる。午前10時から午後3時まで、最善を祈りながら窓の外をのぞいて待っていなくてもいい。日本の郵便局員は、自らの使命を必ず果たす。
11.「代引き」支払い
配達といえば、日本では「代金引換」(または「代引き」と呼ばれる)が一般的だが、これはとくにわれわれ外国人にとってすこぶる便利なシステムだ。たとえば日本滞在中、家族にあまり報告したくない買い物、たとえば日本ならではの新しいビデオゲームや最新型のリアルな「大人のおもちゃ」をオンラインでしたとしよう。
だが、クレジットカードを使うと、海外での使用手数料の請求書や明細書に跡が残ってしまう。
そんなとき「代引き」オプションを選択すると、わずかな手数料(通常は数百円)で、配達日時が予約でき、品物を持ってきてくれた宅配業者に、玄関で直接お金を支払うことができる。購買の履歴がオンラインの請求書に残らない。
12. チェーン店でない、独立系カフェ
日本について考えるとき、緑茶と寿司の国なのだから、チーズケーキやコーヒーじゃないよね、と思うかもしれない。「すてきなカフェ」にはあまり期待しないだろう。しかし日本にでも、コーヒーは人気の飲み物だ。そして、日本のカフェは実にすばらしい仕事をしているのだ。
もちろん、有名なコーヒーチェーン店は全国のあちこちで見つかるが、日本では膨大な数の個人所有のカフェにも遭遇する。そしてそこには、起きている時間のすべてを最高の一杯のコーヒーを入れることに捧げるスタッフがいて、店自体が、スタイリッシュで居心地がよくリラックスできる聖地のような空間なのだ。
きっとあなたは、こんな場所でカフェイン摂取をしたことがなかったと思う。日本の独立系のコーヒーハウスを訪れた後にスターバックスやカフェネロに入ると、味気なく思えてしまうし、故郷にあるハイセンスな個人所有のカフェでさえ、日本のカフェのほど魅力や深遠さが感じられないかもしれない。
13. (なんといっても)食事
とにかくブラボー、日本食!
言うまでもないことだが、日本食は素晴らしい。たとえあなたが母国で、日本食レストランがたくさんある都市に住んでいても、同じ価格で同じレベルのクオリティが得られることはまずもってない。日本に来る前に大好きだった店は、帰国後は確実に「並以下」に感じられるだろう。これだけは保証する。日本を離れた後、あなたが真っ先に心から懐かしく思うのは、日本の食事だ。
14. 四季の鮮やかな区別
「日本には四季がありますからね」。私にそう言った日本人は、数えきれないほどいた。はじめのうちは、「英国にも四季があるんですよ」と応じていたが、数年後に、季節の変化がこれほどまでに日本人にとって重要である理由がわかりはじめてきた。
それは、食べ物、祭り、ファッション、ほぼすべてのことが季節とともに変化するからだ。日本では、気候や植物が移り変わるにつれて、はっきりと流れが切り替わる。
もちろん私の母国にも誇りにできる四季があるが、日本の四季は比べ物にならないほど驚くほど鮮明に区別されていて、文字通り季節の妖精がペンキで風景を塗り替えていくようだ。それぞれに独自の美しさがあり、一度知ってしまえば、そのひとつひとつを愛さずにはいられない。
そう、うんざりする湿気と暑気に包まれる夏や、歯磨きがチューブから絞り出しにくくなる凍える冬さえも。
15.チャーミングな雑貨
「ザッカ(雑貨)」とは、文字どおり「雑多なアイテム」のこと。まさか自分が雑貨に恋に落ちるとは思わなかったが、8年間の日本滞在中に雑貨屋を訪れた回数はおそらく数百回を数えるに違いない。コーヒーカップにソファ、これで食べられるのかと思うねじれた形の、でもテーブルに置くとさりげなくクールなスプーンなど、日用品がずらり並んだ魔法の洞窟さながらの空間では、とくに必要なものがないと思っていてもほぼ毎回、何かを買ってしまう。
手先が器用な日本人は、アクセサリーやクラフトを作るのが本当に上手だ。それに、西洋のデザインが愛らしい形でアレンジされている。だから日本を後にしてから、かつてはいたるところにあった雑貨屋を懐かしく思わずにはいられない。
16.トイレと浴室が別々
日本でも、都市部のほうでは「ユニットバス」(オーバーヘッドシャワーつき浴槽、洗面台、トイレが一つになったプラスチックの箱型空間)を備えた小さなアパートメントがそれなりに一般的だが、ほとんどの日本の家では浴槽とトイレが完全に別室になっている。その理由は、聞けば納得、完全に理にかなっている。
あなたは、わずか数時間前に「大」をした場所からわずか1メートルも離れていないところで体を洗いたいだろうか?
17. コンビニの食べ物がちゃんとしている
西洋では、栄養価の高い軽食や食事を提供するコンビニエンスストアは、ほとんど見あたらない。私の母国イギリスでは、みすぼらしいサンドイッチ、あやしげなソーセージロール、クリスプ(あなたの国では「ポテトチップ」と呼ばれているもの)、チョコレートバー、砂糖の入ったドリンクが、食事コーナーの棚に並んでいる。
それに比べて日本のコンビニエンスストアは、食べ物に関して非常にいい仕事をしている。小腹を満たすための多種多様なジャンクフードももちろん買えるが、作りたての軽食や、ご飯、肉、麺、健康的な野菜の入った食事が、毎日、どんな時間でも売られている。
家で手作りした料理とは比べものにならないとしても、コンビニ弁当は2番目の選択肢としては悪くないし、食べた後にうしろめたい気分になることはめったにない。
18. こたつ
「コタツ」とは、暖房とふとんのついたテーブルのこと。真冬に、こたつに足を入れて座っている感覚といったらもう、何にもかえがたいし、どんなことにも比べようがない。日曜日の朝に「ソファで」ゆっくり過ごすよりもぜいたくでありながら、ぶ厚い毛布を体に巻きつけるよりもはるかに快適かつ実用的で、さらにはテレビのリモコン、おやつ、ドリンク、ノートパソコン、スマートフォン、漫画、本が置ける台までついている。読者のみなさん、こたつはとにかく「超イケてる」。ベタな表現で申し訳ないが、コタツの素晴らしさを表現しようと思ったら、少しでも近いものがこれしか思いつかない。
19. おにぎり
日本食の素晴らしさについてはすでにお伝えしたし、おにぎりは基本的に、ごはんを丸めて中に少々の具を入れただけの食べ物なのだが、それでも特筆に値する魅力がある。
たとえ機械で製造したコンビニのおにぎりであっても、びっくりするほど美味しくて、すばらしい満足感が味わえる。安いし、ボリュームがあるし、朝も昼も夜も食べられるし、ある程度の硬さがあるので、バッグの底にほうり込んでも完全につぶれることはない。
「でもね、サンドイッチはどうなの?」という声も聞こえそうだ。そう、おにぎりと渡り合える西洋の食として思い浮かぶのはたしかにサンドイッチくらいしかなさそうだが、サンドイッチには、おにぎりほどのバランス感と安心感がない。それに、シンプルさ加減もおにぎりにはかなわない。
20. 家のなかで靴を脱ぐ習慣
「玄関で履物を脱ぐ」という日本の習慣を身に着けてしまった人にとって、故郷に戻ってきて一番困ることのひとつが、家に来た客が、汚い古靴や運動靴をはいたまま入ってくることだ。この瞬間の何とも言えない気まずさは、ほとんどの人に理解してもらえない。友達であろうとなかろうと、履物で家の中を歩き回るのは、ラブラドールが泥だらけの体でソファに飛び乗ったり、敷物の上を転がったりするようなものだ。
かといって、「玄関で靴を脱いでくれる?」と頼んだら、「日本暮らしを捨てきれない男」という印象を与えるかもしれない。さらに困るのが、家に修理工を呼んだときだ。見知らぬ他人に「きれいな家が汚れるので、靴を脱いでくれませんか?」と頼むのは一線を越えすぎなのだろうかと、相手の長靴を見つめながら悩んでしまう。
でも、真面目な話、外で履いた靴は恐ろしいほど汚れている。今すぐ愚行にストップをかけよう。
21. そして最後に……「良い子のみなさんは、お家に帰りましょう」のチャイム
その昔、日本では日暮れどきに寺で鐘をついていた。これを「入相の鐘(いりあいのかね)」と呼ぶのだが、今でも日本の多くの町や村では、この公共の放送システムを引き継いで、夕方の時間に短いメロディを放送し、地元の子どもたちに家に帰る時刻だと知らせている。
私が以前住んでいた地域では、ビートルズの「レット・イット・ビー」(……の不安定で無個性バージョン)が毎日午後5時30分(冬季は30分繰り上がる)に流れていたが、数年後になぜか突然、耳に残ってうっとうしい「イッツ・ア・スモールワールド」に変更された。町の時計台のような役割を持ち、時計よりもノリがいい「入相の鐘」は、帰国した多くの外国人が懐かしむ、日本のささやかな魅力のひとつだ。
元記事 ⇒ https://forbesjapan.com/articles/detail/29245