「試合に出られないならやめろ!」スポーツ界でも“毒親”たちの“虐待”が…重圧で「眠れない」と泣く子どもも
5/28(金) 6:01配信
これは過干渉というより、虐待ではないか――そう感じた取材がある。
首都圏に住む女性は、サッカークラブでプレーする小学6年生の娘に対する夫の態度をこう嘆いた。「過干渉で困っています」
夫は、高学年になってベンチにいることが増えた娘に対し「先発で出られないならサッカーをやめろ」となじった。
なかなか試合に出られないわが子に苛立つようだ。
練習や試合を見に行っては帰宅した娘に「もっと走れよ」と説教三昧。
「自主練しろ」「朝練やったのか?」と厳しく迫り、「試合に出られないならやめろ」と言い放つ。
「練習や試合の前夜になると眠れないと泣いて訴えます。このままでは娘が壊れてしまう」
「プロを目指さないなら高い金を出す意味がない」
彼女の話を聴きながら、これはデジャブかと思った。
少年スポーツの現場を十数年取材するなかで、3年ほど前に似た状況の母親を取材したからだ。
彼女もサッカークラブでプレーする中学生の息子への父親の対応に手を焼いていた。
母親は「もともと男の子は厳しく育てるものだという人でしたが、ことサッカーになると特に攻撃的になる」と困り果てていた。
父親は「プロを目指さないならやる意味がない。
親が高い金を出している意味がない」と言って、息子を追い詰めた。
サッカー未経験者ではあるが息子が小学生のときは少年団でボランティアコーチをしていたそうで、
「頑張れば何でもできるんだぞ」と励ますときもあった。
だが、公式戦に出られないと「来週でやめろ」と怒り出す。
息子はサッカーのときも、家でも、ほとんど笑わなくなった。
母親が「本人の好きなようにさせて」と話すと、父親は激高した。
「おまえは自分の子どもの将来を本気で考えてやっているのか!」と聞く耳を持たない。
母親は「どこまで行っても平行線なので、もう離婚するしかない」と話していたが、その後連絡が途絶えてしまった。
学業成績の結果いかんで子どもに過度な圧をかける「教育虐待」は知られているが、スポーツの世界にも毒親は存在する。
思うように結果を出せないと激高し、言葉や態度で子どもを傷つける。
本人は息子、娘のために良かれと思って一生懸命だが、その熱や期待は子どもたちにとってプレッシャーでしかない。
親たちの子ども時代はスポーツの指導で暴力やパワハラが当たり前だったため、教育虐待以上の根深さがある。
子どもをどうしようが親の勝手?
子ども支援専門の国際NGOの日本法人である公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが実施した体罰等に関する調査によると、子どもへのしつけのための体罰を何らかの場面で容認する回答者は41.3%。
3年半前の前回調査結果から15.4ポイント減少した。
昨年体罰禁止を盛り込んだ改正児童虐待防止法と改正児童福祉法が施行された効果が出てきてはいるものの、
5人に2人が体罰を容認している実態がある。
性別では男性が、年代では子育て世代の40代~50代が体罰を容認する割合が相対的に高い。
この体罰等を容認する社会の空気は、子どもをどうしようが親の勝手というような「わが子の人権を認めない子育て観」を助長させるのではないか。
例えば、前述の2つの家庭の父親はともに有形の暴力はないものの、
「先発じゃないならやめろ」などの暴言や、「プロを目指さないならやる意味がない」といったモラルハラスメントに気づけない。
子どもにとって安全基地であるべき家庭が、息の詰まる場所になる。
暴力と同等、もしくはそれ以上のダメージがあるはずだ。
試合に出られないのに強豪クラブに固執する親
首都圏でサッカークラブを運営する40代の男性コーチのもとには、Jリーグクラブや民間の強豪クラブのジュニアユースチームで試合出場の機会のない卒団生が相談にやってくる。
もっと試合に出られそうなクラブに移籍したいが、親が許してくれないと言うのだ。
「チームを移って試合に出ていれば、その先で伸びる可能性はたくさんある。
なので、お父さんたちに『(チームを)移って試合に出たほうが本人も楽しいし、伸びますよ』と話すのですが、ほぼ全員渋ります。
強豪クラブにせっかく入れたのに、と言うわけです。
親御さんたちが見栄を張りたいために子どもが犠牲になっているようにしか見えません」
もう少し頑張らせたい。粘らせたい。
保護者がわが子に「〇〇させたい」と望むと、子どもの自己決定権を奪う。
とどのつまりは主体性を育む機会を阻害することになる。
コーチがプレー中の子どもをベンチ前に呼んで…
同じく首都圏のサッカー少年団でコーチを務める会社員の男性は、小学校中学年の息子が友達に誘われミニバスケットボールクラブに入りたいと言うので一緒に練習を見に行った。
クラブのコーチは、子どもが何かできないと罰として腕立て伏せやフットワークのようなものをやらせていた。
常に厳しい声で指示が飛ぶ。
「同じ地域なのに、自分が指導する少年サッカーは、今は子どもに自分で考えさせる指導が主流になりつつある。
こうも違うのかと驚きました」
翌週試合を見に行って、またも衝撃を受けた。
「バカ」「走れよ!」「やる気はあるのか? !」など、どのチームも、コーチが当たり前のように選手を怒鳴っていた。
「一番びっくりしたのは、コーチがプレー中の子どもをベンチ前に呼び叱責していたことです。
本当に驚きました。子どもは直立不動で、ハイ! ハイ! と返事をしていました。
その間、4対5ですよね?
審判はベンチが暴言を吐くとテクニカルファウルがとれると聞いていましたが、まったくとっていませんでした」
「理不尽な行いに親が同調している気さえしました」
長く所属する高学年の保護者に「これってどうなんですか?」と恐る恐る聞いてみた。
涼しい顔で「どの大会でも、いつもこんな感じですよ」と返された。
クラブの保護者代表に入団辞退の理由を話すと「監督は子どものためを思ってやってるんだけど……」と困惑された。
男性は「保護者が麻痺していると感じました。
暴言や理不尽な行いに親が同調している気さえしました」と憤りを隠せない。
結局、息子に「この環境で君にスポーツをやらせたくないんだ」と親としての気持ちを話して、諦めてもらったという。
「試合に勝つことが、最も重要であると思いますか」
ミニバスケットのチームがすべて前述のようなチームではないだろうが、
日本バスケットボール協会もこのような傾向があることを重く見ている。
対策のひとつとして「保護者アンケート」を4月5日から5月末日まで実施中だ。
「あなたは、チームが試合に勝つことが、最も重要であると思いますか」
「保護者の中には、試合中に応援席から『プレー』に対して指示する方がいますか」
「子どもやチームメイト、コーチなどに対して、感情的な言葉や不適切な言葉を投げかける保護者が自チーム内にいますか」
そのように保護者の実情を尋ねる質問に加え、
「試合中のコーチによる指示・激励の言葉に、暴言などの問題があると感じたことがありますか」といったコーチに関するものもある。
回答は、例えば「思う・やや思う・あまり思わない・思わない」といった4段階から選ぶ簡単なものだ。
協会公式サイトの「U12 カテゴリー保護者アンケートご協力のお願い(2021年 5月末〆切)」に、
「保護者のみなさまから率直なご意見を伺い、『見える化』して、課題解決に取り組んでいきたい」と書かれているように、
保護者の目を通して指導環境の実態を探る狙いがありそうだ。
しかも、部やクラブを通さないため、回答者が特定されずプライバシーを厳守できる。
このあたりの工夫からも、同協会の小学生のプレー環境向上への本気度がうかがえる。
結果はサイト上で公開するそうなので、該当者はぜひ参加してほしい。
親世代が受けた指導では、今の子どもは伸びない
500名の会員が所属する一般社団法人あきる野総合スポーツクラブ(東京都あきる野市)の理事長で、
サッカー指導者でもある高岸祐幸さんは、3年前から保護者向けのセミナーを実施している。
「僕らは主体性や自主性を大事にした指導をしているが、もっと怒鳴ってでもやらせてという親御さんの意見があったので保護者にも勉強してもらおうと思った。
親世代が受けた指導や子育てをそのまま踏襲してしまうと、今の子どもは伸びない。
子どもを真ん中に、指導者と親が同じ方向を向いて取り組むのが重要だと思っている」
怒鳴って厳しくすることは昭和で美談だったかもしれないが、令和ではそうではない。
不適切な言葉は、心理的な暴力、虐待と受け止めたい。
大事な子どもを成長させるために、保護者は時代の変化を学ぶべきだ。
(「Number Ex」島沢優子 = 文)