難しい「おひとり様」の終活 財産管理委任 任意後見 法定後見 死後事務委任…まとめて解説
一人暮らしの高齢者が年々増えています。
近くに頼れる人がいなければ、病気になったり、認知症になったりした後のことが心配になります。
人生の終盤を迎えれば、財産の処分や葬儀などだれかに託さなければいけなくなります。
相続や遺産などさまざま相談業務に乗ってきた弁護士法人リブラ共同法律事務所=札幌市厚別区=の弁護士、小泉純さん(36)に、事前の備えや心構え、注意点などを伺いました。
(聞き手・升田一憲)
■財産管理委任契約の仕組み
――おひとり様の場合、事務所にはどんなご相談が多く寄せられますか。
「自分が亡くなった後の遺産や、遺言書を書いておいた方が良いのかなどの心配、相談が多いですね。
自分の判断能力が将来落ちた場合、財産管理をどうしたら良いかなどの質問もあります。
状況に応じた助言を心掛けていますが、例えば、身体が不自由になり金銭管理が難しくなった場合に備えるとすれば、『財産管理委任契約』が必要なこともあります」
――財産管理委任契約とはどんな仕組みなのでしょうか。
「正確に言うと、本人の財産管理やその他の生活上の事務について、本人の代わりに代理する人を選び、具体的な管理内容を決め委任する契約のことです。
具体的な内容は本人と代理をする人の間で、自由に決めることができます。
例えば、足腰が弱って金融機関に行けなくなった高齢者と弁護士との間で財産管理委任契約を結び、弁護士が通帳などを保管し、入所している施設の費用など必要経費を弁護士が支払ったりします。
ご本人の各種支払いのため、お金の出し入れの管理をするのです」
――この契約の注意点はどんなことですか。
■任意後見契約の狙い
「財産管理委任契約は、文字通り財産管理がメインですから、ご本人に将来、入院や介護が必要となった時、病院との手続きを行ったり、事業者と介護の契約を結んだり、身上監護に関する契約を結ぶ代理権は、一般的にはありません。
将来に備えるという点では不十分さが残ります」
――では、それを補うには、どうしたら良いのですか。
「自分が元気なうちに信頼できる人を見つけ、その人に対して、もし自分が老いて判断能力が衰えてきた場合などには、自分に代わり、財産管理や必要な契約締結をしてくださいとお願いしておく必要があります。
これを引き受けてもらう契約が、『任意後見契約』です。
親族や弁護士に対し、認知症などで将来、自分の判断能力が低下した場合、自分の後見人になってもらうことを委任する契約です」
――似た名称の制度に法定後見契約があると思いますが、両者の違いは何ですか。
「法定後見は自分の判断能力が不十分になった後、親族などの申立てを受けて家庭裁判所が後見人を選び、財産管理・身上監護の支援を受けるものです。
第三者である弁護士や司法書士などが選ばれる傾向にあります。
ただし、裁判所が後見人を選びますので、自分で選ぶことはできません。
おひとり様の場合は、信頼して任せられる人がいるのでしたら、前もって任意後見契約を結んでおくことをお薦めします」
――おひとり様は、亡くなった後のことが特に不安だと思います。どんな備えがありますか。
■死後事務委任契約と遺言
「死後の手続きを第三者に託し契約しておくという手続きとして、『死後事務委任契約』があります。
本人が自分の葬儀や納骨、埋葬などさまざまな事務手続きについて、代理権を付与し、委任する契約です。
亡くなった後の自身の財産をどうするかの備えでは、遺言書を書くことをお薦めしています」
――将来の備えにはさまざまな契約が必要なのですね。やはり、遺言書は書いておくべきですか。
「はい、事前に準備された方がよろしいと思います。
皆さんが通常作成する遺言書は大きく分けると、2種類あります。
一つは遺言者が全文を自筆で書く自筆証書遺言、二つ目が公証役場で専門家の公証人に作成してもらう公正証書遺言です。
費用は掛かりますが、一番安全なのは公正証書遺言です。
一方、自筆証書遺言書は昨年7月から、全国の法務局で預けられるようになりました」
――公正証書より、法務局での保管のほうが、費用が安く済むと聞きました。
「公正証書で遺言を作成する場合、公証役場に納める手数料として財産額に応じて数万円程度かかる可能性があり、弁護士などに依頼した場合にはプラスで弁護士費用もかかります。
ただ、法務局で保管される遺言書は内容までお墨付きを与えるものでありません。
文章に書き慣れていない人が、だれにも誤解されず、誤りのない正確な文章にするのはたやすいことではありません。
弁護士に見てもらうなど慎重を期す必要があると思います」
■遺言書の注意点
――ところで、親戚との付き合いもあまりないので、遺贈寄付に興味があります。注意点はありますか。
「近年、遺産の全部または一部を社会貢献のために寄付したいと考える方、付き合いのある親族もいないので死後は全財産を住んでいる自治体に寄付し活用してほしいなどと考える方が増えてきています。
遺産を寄付する方法では、寄付の相手を遺言書で指定しておく遺贈が考えられます。
――やはり、遺言書はカギになるのですね。
「ただ、遺言書による場合でも、相手が寄付を受けることを断れば、自分の目的を果たせません。
そのため、遺言書で寄付の相手を指定する場合、前もって相手に受け取ってもらえるかどうかを確認しておくことが必要です。
亡くなった後に実際に寄付を確実に行ってもらうため、遺言書の中で遺言執行者も定めておくべきです」
――弁護士に相談というと敷居が高いような気がするのですが。
「それは残念です。気軽に相談して専門家の助言を得てほしいと思っています。
費用が気になるようでしたら、札幌弁護士会が設けている無料の法律相談センターを利用するのはいかがでしょうか。
まずは札幌弁護士会で電話相談も行っていますので、そちらのご利用でも良いと思います。
また、高齢者を対象にした悪徳商法や詐欺なども減っていないだけに、まずは相談していただければ、被害防止にもつながります。
1人で悩まず、法律家のサポートを得てください」
<小泉純(こいずみ・じゅん)弁護士>
青森県青森市生まれ。
青森高校を経て、東京都立大学法学部を卒業。北海道大学法科大学院を修了。
2014年に弁護士登録し、札幌市内の他の事務所を経て、19年に弁護士法人リブラ共同法律事務所(札幌市中央区、同厚別区)に入所。
趣味はキャンプ(アウトドア)で、道内の全キャンプ場を網羅したいと思っている。
お酒が好きで特にビールがお気に入り。全国のクラフトビールの飲み歩きを夢見ている。
36歳。
北海道新聞社
12/30(木) 19:10配信