和田秀樹「友だちの多い人ほど人柄が良く、みんなに信頼されている」なんて見方は一面的すぎる。
老いたら友だちの数なんかどうでもいい
『心が老いない生き方 - 年齢呪縛をふりほどけ! - 』
(著:和田秀樹/ワニブックスPLUS新書)
2022年の敬老の日の発表によると、日本人の9.9%が80歳以上だそうです。
人々の栄養状態がよくなり、医療の発達もあって、個人差は大きいものの、元気な高齢者が増えています。
「実は年齢というのは意外に意味のないもの」と語るのは、老年医学を専門とする精神科医・和田秀樹先生。
和田先生いわく「高齢になればどうしても友人の数も人脈も乏しくなってくる」そうですが――。
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いまさら友だちの数なんか気にしなくていい
高齢になって人間関係から自由になれるというのは、結構、冷酷な面もあります。
たとえば長い付き合いの友人とか遊び仲間のように、心の自由を束縛しない人間関係も少しずつ途切れていくからです。
顔を合わせる機会が少なくなり、病気をしたり身体が不自由になる仲間が増えてきます。
いまはもう年賀状だけのつき合いという友人がだんだん増えてくるのが老いの現実でもあります。
でもこれは仕方ありません。
ぽつりぽつりと欠けていく人間関係は長く生きていれば当然、出てくるし、そのかわり、長く生きていれば新しい人間関係も生まれてくるからです。
ただここで、はっきり申し上げたほうがいいと思うことがあります。
友だちとか遊び仲間のような、気の置けない人間関係だって心の枷には違いないということです。
友人が少なくても、自由に生きている人はいる
そもそも若いころから(子どものころから)、友人が少ないとか仲間がいないというのはコンプレックスの原因になっていました。
友だちの多い人間は人柄も良くてみんなに信頼されているとか、コミュニケーション能力があるから世の中に出ても成功すると思われてきました。
それに比べて友だちがいないというのは、わがままだったり冷淡だったり、あるいは能力が劣っていたりするからで、恥ずかしいことだと受け止める人が多かったのです。
ここでも協調性とか、人柄の良さとか、つまり自分の意見や考えにこだわるより周囲に合わせることのほうが大事だと思われてきたのです。
この傾向は高齢になっても続きます。
周囲に仲間がたくさんいたり、人脈が広くてみんなに信頼されているのが幸せな高齢者というイメージがあります。
その逆が孤独な老人です。友人や仲間が少ないとか、誰も寄り付かないとか、そういう人は性格も偏屈で協調性もなく、孤独だからますます性格が悪くなると思われがちです。
でもわたしは、こういう見方は一面的すぎると考えています。
友人や仲間が少なくても、自由に生きている人がいるからです。
周囲に合わせないで自分のやりたいことをやって暮らしを楽しんでいる人ならいくらでもいます。
「あの人は友だちが少ないし、人脈もない」とか「変わっているから誰も寄り付かない」と思われている人が、じつは誰にも気兼ねせず自分の人生を伸び伸びと楽しんでいるかもしれないのです。
どうせいつかは一人になる、その気楽さに早く気づいたほうがいい
つまり老いたらもう、友だちの数なんかどうでもいいということです。
自由に何でも話せて、楽しいつき合いができる友人が一人でも二人でもいるならそれで十分だと考えたほうが、友人の数や交際範囲の広さにこだわるよりはるかに気楽に生きていけるような気がします。
それに高齢になるということは、周囲から友人が一人、また一人と欠けていくということです。
自分より年上の人がいなくなり、同世代も欠けていきます。
夫婦であってもどちらかに先立たれ、子どもたちとも次第に疎遠になっていきます。
あるいは自分が不自由になって、外出できなくなったり集まりに顔を出せなくなったりもします。
望まなくても友人と疎遠になることだってあるのです。
そういうときでも、友人の数やつき合いの広さを自慢する人は孤独感に包まれることになります。
「いよいよ一人ぼっちになったなあ」と寂しくなります。
でもその「一人ぼっち」と引き換えに初めて本物の自由が手に入ったと思えばいいような気がします。
こう書くとわたし自身、何だか悟りきった人間のように思われそうですが、「そのときはそのとき」という覚悟はできます。
孤独は寂しいとわかっていても、いままでに経験したことのない自由の感覚が生まれるだろうなという楽しみもあるからです。
「一人ぼっち」というのはあり得ない
それからまるっきり一人になってもそのままではありません。
いったん周囲の人間関係が消えてしまうということで、新しい友人ができたりいままでなかった場所に新しい人間関係が生まれてきます。
組織に縛られない仕事やボランティア、自分で考えて生み出す収入の道でも、お互いを拘束しないで張り合いを共有し合う関係が生まれることになります。
とにかく自宅に閉じこもって一人で暮らさない限り、そこに何らかの人間関係は生まれてくるのですから、「一人ぼっち」というのはあり得ません。
むしろ友人の数や人脈の広さを自慢にして、その中だけで生きてきた人のほうが「一人ぼっち」になりがちでしょう。
高齢になればどうしても友人の数も人脈も乏しくなってくるからです。
老いればどうせいつかは孤独になります。
その孤独がもたらす自由の気楽さを恐れるより、組織や人間関係に縛られない生き方を少しずつ実践していく気持ちになってください。
※本稿は、『心が老いない生き方 - 年齢呪縛をふりほどけ! - 』(ワニブックスPLUS新書)の一部を再編集したものです。