「重たい」「嫌いでたまらない」親の"呪縛"に苦しむ大人たち 回復の道筋は

 

1/23(火) 9:20配信

西日本新聞

 

 

「親が重たい」「親が嫌いでたまらない」

-熊本市のNPO法人ウィメンズ・カウンセリングルーム熊本では、そんな親の“呪縛”に悩む人たちのグループカウンセリングを約30年にわたり行ってきた。

幼少期に受けた親の言動や家庭環境が原因で心に傷を負い、大人になってからも影響を受け続ける人たちは「アダルトチルドレン」とも呼ばれる。

昨年11月、同市であったグループカウンセリングでの語りから、アダルトチルドレンが抱える課題と回復について考える。

 

ゆめさん(40代女性、仮名)幼い時、母親に言われ続けた言葉がある

 

「本当は子どもが嫌いだった」

「あなたなんか生まれてこなければ良かったのに」。

その言葉は今でも心の中に残り、苦しい。

母親に褒められた、という経験もない。

何をどんなに頑張っても「まだできる、まだできる」

「駄目だ、駄目だ」の繰り返し。

「ただぎゅっと母に抱きしめてもらうだけで私は救われたのに。それもなかった」

ゆめさんは自分は駄目な人間なのだと思い込み、自己否定を今も続けている。

一方で、それをすべて母親のせいにしている自分を変えたいとも思う。

「今から母を変えることは難しい。でも私は母と同じようにはなりたくない」

 

あんこさん(40代女性、仮名)母親はいつも、あんこさんの外見や身だしなみについて

 

「太りすぎ」「(見た目が)おかしい」と口を出す「厳しい人」だった。

そして最後に必ずこう言った。

「あなたのために言っているのよ」

あんこさんは母の影響で自分に嫌なことを言ってくれる人こそが、本当のいい人なのだと思い込んだ。

誤った認識のまま生きることで生きづらさは増した。

母親との関係は現在までずっと良くない。

それを周囲に言うと、

「親にそんなことを言うもんじゃない」

「育ててもらったのに」

と責められるため、ずっと自分の気持ちにふたをしてきた。

「母のことが大嫌いなんだけど好き。1人で考えるのはもう限界です」

 

えがおさん(30代女性、仮名)幼いころから「母にわがままを言ってはいけない」と思い続けてきた

 

対照的に二つ上の姉は幼いころからいつもわがままばかり。

何か買ってもらいたいものがあれば床に転がって感情をむき出しにし、ねだった。

母はそんな姉ばかりをかわいがった。

大人になってからもそう。

姉はいつも母を頼り、孫の世話を頼むが、えがおさんにはそれが一切できない。

夫から暴力を受けた時も母に相談できないまま、子どもと逃げて1人で苦しみ続けた。

カウンセリングを受け、「お母さんを好きにならなくていい」と臨床心理士に言われた時、気持ちがすっきりした。

「自分を産んでくれた母だから必ず好きでいないといけない。ずっとそう思っていた」

 

「親子だから、そのうち分かり合える」「親子の絆がある」-

 

親子間、中でも母娘間で起きる関係のトラブルはそんな言葉で長年否定され、排除されてきたとNPO法人ウィメンズ・カウンセリングルーム熊本の竹下元子理事長は語る。

特に母親は、同性であるがゆえに娘に自分を投影し、理想や価値観を押しつけがちで、問題が生じやすいという。

幼少期に傷を負ったアダルトチルドレンたちは大人になっても自己肯定感が低く、自分に自信を持てない人が多い。

親の価値観を押しつけられて育つため、自分の意思よりも親や他人の意思を考え、自ら選択して生きることが難しい。

人間関係など生き方すべてにおいて影響を受け、生きづらさを感じる傾向があるという。

そんな大人たちに同カウンセリングルームでは、同じ経験を持つ人たちが集い語り合う「グループカウンセリング」の手法を使って向き合ってきた。

語り合いでは相手の話を否定したり説教したりはしない。

ひたすら静かに相手の話を聞き、共感する。

竹下さんは言う。

「自分が被害者であるという自覚を持ち、親が嫌いだという気持ちを外に吐き出す。それが彼女たちの力になる」

 

 

(本田彩子)

西日本新聞社