ルーの言葉

 


 

組織を変革する最も重要な要素は指導者だ。

 

優れた組織とは管理運営されるものではなく、指導者によって導かれているものだ。

 

勝つことに情熱を燃やす個々人の努力で常に達成レベルを上げていく組織なのだ。

 

優れた指導者は生産性の高い文化を生み出す。

 

高い目標を設定し、結果を公平に評価し、きちんと説明するので、皆が安心して従っていける。

 

どの競争相手よりも早く新しい環境に組織を適応させ、前進させていく変革者である。

 

指導者は組織のだれからもよく見えていなければならない。

 

優れたCEO(最高経営責任者)は自ら腕まくりし、進んで問題に取り組む。

 

担当者たちの後ろに隠れ、他人のやった仕事を管理するだけの人間では断じてない。

 

トップは毎日、顧客からも、取引相手からも常によく見える存在でなければならない。

 

指導力はコミュニケーション能力でもある。

 

率直に、頻繁に、しかも喜んで相手の知性に敬意を払いながら正直に意思表示していくことが重要であり、自分の真意をあいまいにごまかす表現、二枚舌は決して使うべきではない。

 

そして何よりも、指導力には情熱が不可欠だ。

 

偉大な指導者は古今東西を問わず、勝つことに情熱を傾けてきた。

 

彼らは毎日、毎時間、勝とうとして仲間を駆り立てている。

 

ハーバード・ビジネススクールの教室で「情熱」という言葉を聞いた記憶はないが、優れた経営者は全員、強烈な情熱を持ち、それを示し、情熱を愛しているものだ。

 

そもそも悲観論者のために仕事をしたいと思う人がいるだろうか。

 

自分の会社の弱点ばかりあげつらい、愚痴をこぼしている管理者のために働きたいと思う人がいるだろうか。

 

われわれは皆、勝者のために働きたい、勝ち組に入りたいと思っているのだ。

 

社内のどのレベルの管理者も自分の指導力を高めるために、そうした感情面を重視すべきだと私は思う。

 

「勝て、実行しろ、チームを組め」
私はこの3つの言葉を指導者の条件とし、全IBM社員が目標設定する際の最も重要な規範として提唱してきた。

 

ビジネスは勝つことを目指した競争であり、実行するにはスピードと効果的にこなせるだけの技量が問題になる。

 

しかも1つの組織として統一的に明快に前進しなければならない。

 

IBM取締役会が私の後任を選ぶ際、「情熱」が条件の上位にあった。

 

サム・パルミサーノは才能豊かな傑出した幹部だが、彼がIBMを心から愛し、その将来について強烈な情熱を持っているからこそ、私も推薦したのだ。

 

彼は感受性豊かで常に勝つこと、成功のレベルを上げることに情熱を燃やしている男だ。

 

今にして思うのは、私は常に、そして最後までIBMのアウトサイダーだったということだ。

 

サムをはじめ経営幹部のほとんどは、私と一緒にIBM再生の立役者になったが、彼らは私には決して持ち得ない展望を共有していた。

 

彼らはIBMで育ち、その栄光の日々から苦難の日々、そして回復の過程をすべて体験している。

 

そのルーツは私より深く経験も豊かだ。

 

サムには伝統の継承という、私が決してできなかったことができる。

 

それは過去に戻るのではなく、過去の最良、最高の部分を基にしながら未来に向けて挑戦し続け、変化し続けることだ。

 

それこそがIBMのCEOの究極の責務なのだ。

 

 


 

ルイス・ガースナー
「私の履歴書」
2002年11月29日
日経新聞