それは、雪絵ちゃんが亡くなったという報せの電話でした。

私は雪絵ちゃんがどんなに悪くなっても、どんなに危ないと言われても、いつも雪絵ちゃんは絶対に大丈夫だとなんだかそんなふうに思っていました。
けれども亡くなったという報せを聞いたときに、私は雪絵ちゃんは今日亡くなろうって自分で決めたのかなってなんだかそんな気がしました。
雪絵ちゃんはいつもいつも、なんでも自分で決めていたんです。
クスリを飲むか飲まないか、入院するか退院するか、そういうことも自分で決めていました。

「だって、私の人生だよ。誰が私の人生に責任を持てる? 誰も持てないよ。でも私なら持てる。私が決めたことだったら、がんばれるし、誰のことも恨まなくてすむからね」
ってそう言っていたんです。
だから、雪絵ちゃんは今日亡くなろうって自分で決めたのかなって思いました。
雪絵ちゃんのおうちに行ったら、お母さんが待っていてくださいました。

そして、雪絵ちゃんのお部屋に通してくださったんです。
雪絵ちゃんの枕元には姪っ子さんや甥っ子さんが楽しそうに遊んでいてね、
あのお本当に優しい顔で、眠っているみたいでした。

お母さんは不思議なことをおっしゃるんです。
「この子はね、今日亡くなろうって自分で決めたんだと思います」って。

「どうしてそう思われるんですか?」って言ったら、
「この子は、年が明けたら、一月になったらね、大きな病院にかわることに決まっていたんです。
その病院はこの子が絶対に行きたくないと言っていたとても遠い病院でした。
この子は家が好きでしたから、そこには行きたくないといつも言っていたんです。
この子はお正月も自分の誕生日も、みんなね、自分の家ですごそうと決めていたんじゃないでしょうか」
とお母さんがおっしゃいました。

そしてお母さんが、
「不思議なんですよ。
この子は、今日亡くなって、明日27日がお通夜で、28日、お誕生日がお葬式なんですよ。
この子はね、お誕生日がいつもことさら大好きで、大事な日、大切な日と言っていた。
その日にお葬式なんですよ。
あっぱれな子ですね」
とおっしゃいました。

「私は実は今日、ここにいないはずだったんです。
飛行機が飛ばなかったので」と言いました。

お母さんは、
「あの子は、先生にいてほしいために、飛行機までとめてしまったんですね」
とおっしゃいました。
そして、きっと、お通夜やお葬式の席じゃなくて、今日、ここで先生とお別れがしたかったんでしょう。
あの子は先生と行った温泉旅行がすごくうれしかったようで、その話ばっかりしていましたから、この子をソウルに連れて行ってやってください」
と言ってくださいました。

それで、私は雪絵ちゃんのお通夜にも、お葬式にも出席していません。
雪絵ちゃんと一緒のつもりで、飛行機に乗り込みました。
けれども、私は雪絵ちゃんのことばっかり考えてね、雪絵ちゃんはいつもいつも、
「私でよかった。私の人生を後悔しない」って言っていたけど、
でも、やっぱりつらくて悲しい人生だったんじゃないだろうか、
そんなふうにも思ったりもしました。
また、雪絵ちゃんは負け惜しみを言っていたんじゃないだろうか?と思ったりもしました。
けれども、またこれも本当に不思議なんですが、私の鞄のなかに雪絵ちゃんからのエッセイが、手紙が一つ入っていたんです。
それはこんな手紙でした。

 

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